日本禁煙科学会学会誌「禁煙科学」誌(2007年発刊分)の概要を紹介しているページです。
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【挨拶】日本禁煙科学会 第二回学術総会 御礼 |
高橋 裕子 | |
【教育連載】禁煙科学を進めるためのEBMと疫学(2) |
中山 健夫 | |
【教育寄稿】アスリートへの禁煙支援 |
東山 明子 | |
【寄稿】禁煙推進のための法的整備 |
中川 利彦 | |
【対談】週刊タバコの正体
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奥田 恭久 | |
【短報】大学職員の喫煙者を対象に実施した喫煙の実態調査
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山本 眞由美 | |
【実践報告】「週刊タバコの正体」100号の記録 |
奥田 恭久 | |
【原著】行動変容における「巧みな意志」の活用について
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平松 園枝 |
【教育連載】禁煙科学を進めるためのEBMと疫学(2) |
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著者名:中 山 健 夫*1
所属機関名:*1京都大学大学院医学研究科社会健康医学
EBMの発展と疫学:
「医療の質」評価に対する社会的関心を背景に"エビデンス(根拠)に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)"は、1990年代半ばから急速な発展を遂げた。
現実の医療現場での意思決定は「限りある医療資源」のもとで、「医療者の経験・熟練(clinical expertise)」「患者の嗜好・価値観(patient preference)」「研究によるエビデンス(research evidence)」が勘案されて行われる。EBMは「個々の患者のケアに関する意思決定過程に、現在得られる最良の根拠(current best evidence)を良心的(conscientious)、明示的(explicit)、かつ思慮深く(judicious)用いること」とされる1)。
EBMの前身とも言えるのが、「臨床疫学」である。「臨床疫学」とは、地域住民を主たる対象として、数々の疾病の原因(または危険因子)を解明してきた「疫学(epidemiology)」が、臨床の問題を解決するために応用されたものである。LastによるDictionary of Epidemiology は、疫学を「特定の集団(specified population)」における健康に関連する状況あるいは事象の分布(distribution)あるいは規定因子(determinants)に関する研究」2)と定義している。
本論では数回にわたって、禁煙科学を推進するのに有用と思われる疫学やEBMの基本的な考え方を紹介していきたい。
臨床医の感覚と疫学的視点:
身近な例で考えてみよう。多くの臨床医は、自分が(そこそこの)名医であるというささやかな自負を持っている。「自分の外来に来る患者さんは、『先生のおかげで良くなりました、先生は名医です』と言ってくれる」という話もよく聞く。しかし、だからと言って、このような話だけで、自分を名医といって良いだろうか?
少し考えれば分かるように、「良くならなかった患者さんは何も言わずに転院している」かもしれない。残念ながら、外来に通い続けていて、臨床医が診ている(というより臨床医に見えている)のは一部の患者さんに過ぎない。これは「脱落例(dropout)」という、疫学やEBMの視点で情報を読み解く際の基本的な、そして最も大きな落とし穴の一つとなる。疫学的な適切に検討を行うには、受診した患者さんを全員登録して追跡調査を行うことが必要となる。こうして初めに受診した患者さん全体を「母集団」と考え、何人が転院し、そのうちの何人が良くなり、何人が良くならなかったのか、きちんと割合を示すことができる。当たり前のことのようでいて、これすらも疎かにされている学会発表は少なくない。意図的でも(治療成績を良く見せるには、予後の悪そうな患者さんは除外する=初めから診ない、という場合も考えられる)、意図的でなくても、「母集団」のうちの多くが脱落した後に残ったケースだけから判断する誤りを、疫学的には「選択バイアス」による誤りと言う3)。
症例報告が医学の進歩に大きな役割を担ってきたことは確かであるが、臨床現場では「例外的な1例」を(学会発表のため?)大事にしすぎる傾向があるかもしれない。特に初期研修の際は、個々の症例、つまり分数の「分子」にあたるケースを病理学的・生理学的に突き詰めようとするトレーニングが重視される。これをもとに研修医が、ほとんどすべて症例報告で占められている学会の地方会で発表することは当然のように受け容れられている。一方、分数の「分母」、すなわち目の前の患者さんが由来してきた「母集団」を意識する、場合によっては適切に取り扱う術はほとんど学ぶ機会が無かった。この術こそが疫学であり、臨床疫学である。EBMへの関心の高まりから、疫学的な考え方への認識が広まりつつあることは歓迎すべきことと言える。
次号でも事例を用いて、疫学・EBMの考え方の基本を解説していきたい。
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【教育寄稿】アスリートへの禁煙支援 |
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著者名:
東山明子*1
所属機関名: *1畿央大学 健康科学部
Key Sentences:
・21世紀に入りスポーツ界における禁煙化が世界レベルで進んできている。 ・しかし、成人アスリートや指導者の喫煙は依然として存在し、アスリート自身のパフォーマンスや未成年アスリートへの喫煙の連鎖に影響している。 ・禁煙支援には、アスリートに関わる人々による心理的支援が有効である。 |
【寄稿】禁煙推進のための法的整備 |
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著者名:
中川利彦*1
所属機関名: *1弁護士・日本禁煙科学会理事
Key Sentences:
未成年者の喫煙を防ぐためには未成年者喫煙禁止法を厳格に適用し、またたばこ自動販売機を撤廃し対面販売に限定すべきである。 権利や自由といえども他人の生命健康を害することは許されないから、喫煙の自由は無制限に認められるものではなく、公共の場所や職場など非喫煙者と共有する空間、非喫煙者が利用する可能性のある場所は全面禁煙か完全分煙にしなければならない。 学校・病院などはその目的から敷地内全面禁煙にすべきであり、喫煙の自由はその範囲で制限を受ける。 禁煙推進のためには、たばこ事業法を全面改正する必要がある。 |
【対談】週刊タバコの正体
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著者名:
奥田恭久*1、高橋裕子*2
所属機関名: *1和歌山県立和歌山工業高等学校 電子機械科、2*奈良女子大学 保健管理センター
喫煙防止教育で重要なのは暴露頻度だと言われる。年に一回、1時間の授業も大事であるが、「週刊タバコの正体」というプリントを配ることで毎週生徒が喫煙防止教育を受ける形をつくり続けてきた先生が和歌山にいる。週1回、たった5分のプリントの配付が引き起こした変化は大きなものであった。
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【短報】大学職員の喫煙者を対象に実施した喫煙の実態調査
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著者名:
山本眞由美*1*2、田中生雅*1*3、武田純*1*2、黒木登志夫
所属機関名: *1岐阜大学,保健管理センター、2*大学院医学系研究科内分泌代謝病態学分野、3*精神神経医学分野
岐阜大学では平成17年度から構内全面禁煙を施行し、喫煙所をすべて撤去した。しかし、屋外でかくれて喫煙したり、そのために吸いがらが増えたなどの問題点を指摘されるようになった。調べてみると、学生のみでなく大学職員の喫煙者も関与している事が判明した。そこで、今後の改善策をたてる目的で、喫煙職員を対象に自記式調査を実施したので報告する。平成18年度の職員定期健康診断を受診した1,596名全員に無記名自記式調査票を配布し、記入後回収した(回収率100%)。そのうち、喫煙者は150名で喫煙率は9.4%であった。この150名に対し、喫煙に関する知識や構内禁煙についての意識などに関する調査票を配布した。1日の平均喫煙本数は14.7±8.2本で、平均喫煙年数は16.5±10.3年であった。喫煙者の60%以上が起床後最初の喫煙開始まで30分以内であり、就業時間中に全く喫煙しないという事はむずかしいと推察された。また、80%近くが禁煙について関心をもっているものの、直ちに禁煙したいと答えたのは10%未満であった。禁煙することについて 「全く自信がない」 を0%、「大いに自信がある」 を100%とした時、50%以上の自信があると答えたのは喫煙者の50%であった。構内全面禁煙に関わる諸問題を解決させるためには、職員の禁煙サポート体制の充実が不可欠であることが示された。
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【短報】行動変容における「巧みな意志」の活用について
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著者名:
平松園枝*1、高橋裕子*2
所属機関名: *1聖路加国際病院附属クリニック・予防医療センター、2*奈良女子大学 保健管理センター
イタリアの精神科医ロベルトアサジオリ(1888〜1974)はその著書「意志のはたらき」の中で、「巧みな意志」について述べ、行動には「強い意志」だけでなく「巧みな意志」がしばしば使われることを指摘した。「巧みな意志」を使うことは、日本ではほとんど注目されていない。しかし実際には、日本における行動変容においても「巧みな意志」を使っているとの理解が可能である。
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pdf(2234kbyte) :http://www.jascs.jp/jascs_kaiin/kinen_kagaku/002_2007/kinen_kagaku_01-2.pdf | ||
【総説】禁煙科学とは |
吉田 修 | |
【教育連載】禁煙科学を進めるためのEBMと疫学(1) |
中山 健夫 | |
【対談】タクシー全車禁煙化を実施して大分県タクシー協会 漢 二美会長、聞き手:高橋 裕子 奈良女子大学 |
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【原著】
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山本 眞由美 | |
【短報】大分市におけるタクシー全車禁煙化
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清原 康介 |
【教育連載】禁煙科学を進めるためのEBMと疫学(1) |
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著者名:中 山 健 夫*1
所属機関名:*1京都大学大学院医学研究科社会健康医学
EBMの発展と疫学:
「医療の質」評価に対する社会的関心を背景に"エビデンス(根拠)に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)"は、1990年代半ばから急速な発展を遂げた。
現実の医療現場での意思決定は「限りある医療資源」のもとで、「医療者の経験・熟練(clinical expertise)」「患者の嗜好・価値観(patient preference)」「研究によるエビデンス(research evidence)」が勘案されて行われる。EBMは「個々の患者のケアに関する意思決定過程に、現在得られる最良の根拠(current best evidence)を良心的(conscientious)、明示的(explicit)、かつ思慮深く(judicious)用いること」とされる1)。
EBMの前身とも言えるのが、「臨床疫学」である。「臨床疫学」とは、地域住民を主たる対象として、数々の疾病の原因(または危険因子)を解明してきた「疫学(epidemiology)」が、臨床の問題を解決するために応用されたものである。LastによるDictionary of Epidemiology は、疫学を「特定の集団(specified population)」における健康に関連する状況あるいは事象の分布(distribution)あるいは規定因子(determinants)に関する研究」2)と定義している。
本論では数回にわたって、禁煙科学を推進するのに有用と思われる疫学やEBMの基本的な考え方を紹介していきたい。
臨床医の感覚と疫学的視点:
身近な例で考えてみよう。多くの臨床医は、自分が(そこそこの)名医であるというささやかな自負を持っている。「自分の外来に来る患者さんは、『先生のおかげで良くなりました、先生は名医です』と言ってくれる」という話もよく聞く。しかし、だからと言って、このような話だけで、自分を名医といって良いだろうか?
少し考えれば分かるように、「良くならなかった患者さんは何も言わずに転院している」かもしれない。残念ながら、外来に通い続けていて、臨床医が診ている(というより臨床医に見えている)のは一部の患者さんに過ぎない。これは「脱落例(dropout)」という、疫学やEBMの視点で情報を読み解く際の基本的な、そして最も大きな落とし穴の一つとなる。疫学的な適切に検討を行うには、受診した患者さんを全員登録して追跡調査を行うことが必要となる。こうして初めに受診した患者さん全体を「母集団」と考え、何人が転院し、そのうちの何人が良くなり、何人が良くならなかったのか、きちんと割合を示すことができる。当たり前のことのようでいて、これすらも疎かにされている学会発表は少なくない。意図的でも(治療成績を良く見せるには、予後の悪そうな患者さんは除外する=初めから診ない、という場合も考えられる)、意図的でなくても、「母集団」のうちの多くが脱落した後に残ったケースだけから判断する誤りを、疫学的には「選択バイアス」による誤りと言う3)。
症例報告が医学の進歩に大きな役割を担ってきたことは確かであるが、臨床現場では「例外的な1例」を(学会発表のため?)大事にしすぎる傾向があるかもしれない。特に初期研修の際は、個々の症例、つまり分数の「分子」にあたるケースを病理学的・生理学的に突き詰めようとするトレーニングが重視される。これをもとに研修医が、ほとんどすべて症例報告で占められている学会の地方会で発表することは当然のように受け容れられている。一方、分数の「分母」、すなわち目の前の患者さんが由来してきた「母集団」を意識する、場合によっては適切に取り扱う術はほとんど学ぶ機会が無かった。この術こそが疫学であり、臨床疫学である。EBMへの関心の高まりから、疫学的な考え方への認識が広まりつつあることは歓迎すべきことと言える。
次号でも事例を用いて、疫学・EBMの考え方の基本を解説していきたい。
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【原著】大学の学生・職員全員に施行した
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著者名:
山本眞由美*2*3、田中生雅*2*5、武田純*2*4、黒木登志夫*1
所属機関名: *1岐阜大学、2*保健管理センター、*3大学院連合創薬医療情報研究科医療情報学専攻、*4医学系研究科内分泌代謝病態学分野、*5精神神経医学分野
背景:本学では平成17年度から敷地内全面禁煙を施行している。その実効性を把握するために、学生及び職員に無記名自記式調査を実施したので報告する。
方法:学生5988名、職員1700名に無記名自記式調査紙を配布、回収した。回収率は学生48.8%、職員64.4%であった。質問は喫煙に関する知識や敷地内全面禁煙についての意識調査を中心とした。
結果:健康増進法の内容は、学生の50%、職員の25%が知らなかった。敷地内全面禁煙を施行1年を経過した現在でも、学生の12%、職員の4%は認識していなかった。敷地内全面禁煙については学生職員ともに約75%という多数が良かったと評価していた。しかし、禁煙の不徹底や吸殻の増加などの問題点も指摘された。喫煙に関する知識は、学生職員ともに約75%が経済的社会的損失を知らなかった。喫煙者の学生310人、職員151人から回答を得たが、そのうち「禁煙したくない」と答えた人はそれぞれ160人、70人であった。
結論:敷地内全面禁煙については「学生に範をたれるために職員は学内で吸わない」という学長メッセージを伝えているが、職員の喫煙者の半数は禁煙を考えず、禁煙サポートにも無関心であった。敷地内全面禁煙の体制は整ったが、今後、さらに実効性を高めるには、正しい情報の提供、喫煙者に焦点をしぼった対応が必要と思われた。
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【短報】大分市におけるタクシー全車禁煙化
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著者名:
清原康介*1、高橋裕子*2、三浦秀史*3、伊藤裕子*4、住田実*5
所属機関名: *1京都大学 医学研究科社会健康医学系専攻)、*2奈良女子大学 保健管理センター、*3禁煙マラソン、*4藤内科医院・禁煙健康ネット大分、*5分大学 教育福祉科学部・禁煙健康ネット大分
背景:大分県大分市のタクシー協会は2006年4月より大分市内のタクシーを全車禁煙とした。1年が経過し、今回同市のタクシー会社の経営者を対象に全車禁煙化に関するアンケート調査を実施したので報告する。
目的:本研究では、女子大学生を対象に、ステージ理論が、喫煙行動の習慣化についても適用でき、ステージの推移にしたがってprosとconsが系統的に変化することを検証すること、また、ステージにともなう喫煙に関わる諸要因の変化を明らかにすることを目的とした。
方法:2007年6月に、大分市内に本社があるタクシー会社の経営者に自記式アンケートを配布し、回答を依頼した。調査票より、「タクシーの全車禁煙について、あなたは総合的にどうお考えですか。」、「タクシーを全車禁煙にして、職場環境としてはどのように変化したと思いますか。」、「タクシーを全車禁煙にして、よかったことはありましたでしょうか。」、「タクシーを全車禁煙にして、不都合なことはありましたでしょうか。」の4項目を取り上げて回答を集計した。
結果:21社すべての経営者から回答を得られた。「タクシーの全車禁煙を総合的にどう思うか」という質問項目には、14人が「とてもよい」または「よい」と回答した。「タクシーを全車禁煙にして職場環境はどのように変化したと思うか」という質問項目には、12人が「改善した」と回答し、「悪くなった」と回答した者は1人もいなかった。「タクシーを全車禁煙にして良かったこと」という質問項目では、「喫煙しない客から好評」(9人)、「車内が清潔になった」(8人)といった意見が多かった。「タクシー全車禁煙後に起こった不都合なこと」という質問項目では、「喫煙客とのトラブルや苦情」をあげた者が9人と最も多かった。一方、「特になし」と回答した者も7人いた。
結論:本調査結果より、大分市におけるタクシーの全車禁煙はおおむねスムーズに実施され、好評を得ていることが明らかとなった。本調査はタクシー禁煙化実施後の状況を把握する全国ではじめてのものであり、本調査結果は今後タクシー禁煙化を実施しようとする自治体の一助となることが期待される。
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html:http://www.jascs.jp/jascs_kaiin/kinen_kagaku/001_2007/kinen_kagaku_001.php | ||
【第1回 日本禁煙科学会 学術総会】2006年(平成18年)12月16日−17日(京都)京都大学 |