「コロナ感染予防には三密を避け、換気が大事!」と言いますが、残念ながら換気とはどういうものかをきちんと学んだことがない人がほとんどです(私もそうです)。今回、COVID-19関連の情報を提供頂いた阪田升先生は、第14回日本禁煙科学会学術総会で受動喫煙のシミュレーションについて特別講演をしてくださいましたので、覚えておられる方も多いと思いますが、「空気の流れ」を分析する専門家で、世界のトップです。建築工学の知識が皆無の私たちにもわかるように平易な言葉で書いてくださっています。ぜひこの機会に、換気についての正しい知識を学び、実地に役立ててください。(※下記の「正しい換気」の原稿は、阪田升先生が社長をしておられる(株)環境シミュレーションから発出されたメルマガから、阪田先生の許可をいただいて転載させて頂いています。) なお、「無断転載不可」ですので、転載をご希望の場合は高橋裕子まで連絡頂きますとともに、必ず「阪田升(株)環境シミュレーション」と入れて下さいますようお願いします。 日本禁煙科学会 高橋裕子
阪田升(株)環境シミュレーション
「正しい換気」を考えるには、建築工学の基本知識に基づいて、ウイルス拡散現象の過程を、1つ1つ定量的に積み上げる必要があります。今回は次の内容をお話ししましょう。
◆空中を浮遊するウイルス 世界を震撼させている新型コロナウイルス。 感染経路の分からない厄介なウイルスです。 しかし、陽性者から排出されたウイルスは、何らかの形で空気中を旅して、次の宿主にたどり着くのです。接触感染は置いておいて、空気感染・エアロゾル感染など、気流の動きによってウイルスが運ばれるのも事実のようです。
咳などによってウイルスが空気中に吐出された後、何が起こっているのでしょうか? 陽性者が持っているウイルスは、肺や気道から飛沫となって体外に排出されます。 飛沫には水分とウイルス、体内の分泌物や途中で巻き込んだホコリなどが含まれます。 飛沫は体外に出ると急激に水分の蒸散が起こり、乾燥します。
後にはウイルスとホコリ・分泌物の残滓が残り、空中を浮遊します。たまたま近くに人が居れば、その人の体表面に付着したり、吸い込まれることになります。マスクをしていれば途中で飛沫はトラップされますので、感染の予防効果があるのは当然です。
ウイルスの大きさは1ミクロン以下。 空気中の粒子は、その粒径と密度によって所定の終端速度で落下しますが、周囲の気流速度が終端速度よりも大きい場合、粒子はいつまでも空中を舞っている場合があります。「プルトニウムは重いから飛ばない」と言った大学の先生が居たようですが、プルトニウムも微粒子化すればわずかな風速で飛びます。
◆換気回数とは 換気回数は建築設備分野での専門用語で、ある部屋の空気が1時間に何回入れ替わるかという指標です。例えば30㎥の部屋があったとして、1時間60㎥の換気があったなら、換気回数は2回になります。一般に建築基準法では、住宅などの居室で、換気回数0,5回以上である事を求められます。これは2時間以下で、その部屋の空気が全部入れ替わる事です。
用途で、必要とされる換気回数は変わります。 倉庫などでは1回換気、オフィスなどでは3~4回換気を求められる事があります。データセンターでは20~30回換気、最も多い例では塗装ブースが100回を大幅に上回る換気回数の場合があります。
ウイルスによる感染防止の観点では、換気回数は多ければ多い方が良いのは当然です。(部屋に取り込む外気は、ウイルスがないものと仮定)
◆人数から見た適正な換気量 成人一人の呼気量は1回500ccと言われます。 1分間に18回程度呼吸するとして、毎分9リットルの息を周りに吐き出している事になります。これは1時間では540リットルになります。
それに対して、例えば6畳間の容積は2.7m×3.6m×2.5mで24.3㎥。0.5回換気に必要な空気量は、1時間に12㎥程度です。
成人一人の1時間の呼気量が0,54㎥でしたから、これを部屋の換気量で割ると希釈率は0.0444。つまり人間の吐いた空気は、1時間で20倍から25倍に希釈される事になります。
どの程度までウイルスが存在する空気を摂取したら感染するかは明瞭ではありません。そこでおおまかな目安として、10%以上の他人の呼気を吸うのは好ましくないとすると、6畳間なら二人程度が一緒に居る事を許される限界になります。(2人の1時間の呼気量は1.08㎥。これを0.5回換気に必要な空気量である12㎥で割り算すると9%)
これが、もっと広めの会議室ならどうでしょう。 弊社がユーザー会で使う貸会議室は、面積250㎡・高さ3.5mで132名収容です。部屋の気積が875㎥として0.5回換気の空気量は約437㎥。 132名分の1時間の呼気量約71㎥は、その16%ほどになります。 これは6畳間で二人程度での10%をかなり上回ります。もし人員の中に陽性者が居れば感染のリスクは高まるでしょう。 そして、この会議室で呼気の希釈率を10%以下にするには、換気量を倍にするか、収容人員を半分にすればよいといったことも、見えてきます。
3密の中の「換気の悪い密閉空間」は多くの場合、漠然とした感覚的なものでとらえられがちですが、こうしてみると、ある程度定量化出来る事が分かります。
次回以降は、 ◆部屋のどこに居れば良いか ◆どこが淀むか ー換気効率指標ー ◆正圧制御と陰圧制御 ◆コールドドラフト ◆暖房機器の影響 ◆窓・ガラリ・換気扇 ◆完全混合流れとピストン流れ ◆ベストの空調方式は などについて順次お話しします。