日本禁煙科学会

日本禁煙科学会  理事長挨拶

【過去データ】吉田修前理事長(2009.10.25退任)の在任時期の理事長挨拶のページです。

ご挨拶

吉田理事長






日本禁煙科学会理事長  吉田 修
(奈良県立医科大学学長)


 「たばこの無い健康な社会、クリーンな環境」を現実のものとしたいとの願いは、世界中の人々の願いであると思います。しかし、たばこが人の健康を害し、癌の原因のみならず他の多くの疾患の原因になっていることがこれほど明らかになっているにも拘わらず、「たばこのない社会」が実現しないのは何故でしょうか?

 私の専門は泌尿器科です。従って膀胱癌の病態や発生要因についていろいろ研究してきました。喫煙が膀胱癌の主要な原因になっていることは事実ですが(少なくとも日本において)、私どもが研究を始めたことは余り注目されておりませんでした。

 たばこを吸いますと尿の変異原性が上がりますし(4時間でピークに達し、8時間持続する)、受動喫煙者の尿変異原性も上がります(金岡、吉田他:泌尿紀要1990)。また膀胱癌組織では癌抑制遺伝子の一つであるp53の点突然変異は喫煙が原因の場合と、エジプトなどの膀胱癌のように住血吸虫寄生が原因と考えられる場合とでは明らかに異なりますHabuchi,T., Yoshida,O., et al:Cancer Res., 1993)。

 私はこれらの研究を通じて、喫煙の影響は全身に及びいたるところに障害をもたらすものであること、禁煙は癌をはじめとするたばこ関連疾患の予防に最も効果的な方法であること、そして研究者はたばこの害についての科学的根拠、質の高いエビデンスを社会に示す責任があることを痛感しました。 

 しかし同時に「たばこのない社会」の実現は決して容易ではないことも充分に認識しました。そして「科学する」というアプローチが何よりも必要なことであると思うにいたりました。いろいろな角度からの科学的アプローチが必要で、その統合されたものが禁煙科学(Smoking Control Science), ないしは禁煙学とよんでもよいものであり、それがわれわれの目標でもあり、「たばこのない社会」の実現に不可欠のものであると考えます。

 皆さんのご協力により、この目的が達成されることを心から願っております。よろしくお願い致します。